スピーカの歴史はウエスタンから続いていることは周知のとおりですが直系のアルテック、JBLのみならずNECを経由してYL音響に受け継がれたことで日本のマニアは海外から見ると異常なほどホーンに傾倒していました。
その後、この流れはONKEN,GOTO,エールの3社に引き継がれ今でもたくさんの愛好家が使用されています。しかしながら遠藤正夫氏、後藤誠哉氏、小泉氏3名の創業者とも亡くなられ、ONKENはほぼ断絶。GOTOはご子息が引き継がれていますがBe振動板は製造停止し、修理とTi系が継続されている状況。エールにおいては松尾氏が引き継ぎ修理、製品制作も続けられていますが全機種復活までには至っていない様です。
また、アルニコ外磁型磁石を使用したユニットは経年変化で磁束が減っていきます。やはり10年もたつと半減に近い状況になります。
このような背景の中、世の中の技術は日進月歩で進んでおり最新の技術、材料を使って彼ら3名が若かりせばこのような形になるのではないかという製品を模索してきました。
本ブランドでは改めて1920~1950頃の電気音響文献を読みあさり、ウエスタンのトップエンジニアが何を思い555などの設計を行ったのか検算しながら失われつつあるホーンスピーカへの思いを呼び覚まし、今一度スピーカの奥に音楽家の気配を感じる世界を再現したいという思いです。
以上のように古文書を紐解き原理原則に忠実にオーディオに挑戦したいというのが本ブランドのアプローチになります。ウェスタンの時代にはオーディオマニアは存在せず理屈に合わないことはやられていません。しかしながらすべての製品をリースで映画館等に提供してきた背景から無駄なコストをかけない代わりに必要なところには十分なコストを掛けて製品化しています。昨今のオーディオ業界では如何考えても意味不明な高額アクセサリが販売されている割には原理原則が軽んじられていると考えています。やはり原理原則に忠実なものは時代を経てもその製品としての価値は下がらず、むしろ評価が上がっていくものと信じております。M‘s factory ではこうした製品を目指したいと考えています。特にホーンスピーカに拘り使いこなしまで含めて提供できるようにしていく所存です。
従いまして一つ目のアプローチとしては最新の素材を駆使して後藤さん、遠藤さんの目指したその先を目指したいという製品です。今後も時間をかけて一つ一つ製品化していければと考えています。しかしながら特にパーメンジュールなどのコバルト合金素材はコバルトが電池正極剤の主要成分となっていることなどから価格の急騰が続いています。今後も上がることはあっても下がることはない??が見込まれます。このような背景から高額な価格を設定しなければならない事情があります。
二つ目のアプローチとしてはシステム全体を合理的にまとめるためのお手伝いができればと考えています。如何してもホーンスピーカは大型化が避けられず、低音ホーンに至っては建物の建築からアプローチしないと実現不能です。私も約20年前に200t以上のコンクリートを打設して建物と同時に低音ホーンを作りました。勿論、原理原則至上主義を貫くとこういう世界に入らざるおえないことになります。この世界も支援できると思いますが、一方でなんとか普通の部屋でもこの音に近いものが提供できないか??という思いです。残念ながら今のところ完全に同一レベルの可能性はありません。何をやっても低音ホーンと直接比較をしてしまうと挫折感を味わうことになりますが。。。。。。
それでも長年やってきた自分なりの理屈と実践経験を持って考え方を後世に残し、次の世代にはさらに先へ言ってほしいという願いも込めて整理していきます。その中でリーズナブルにシステムをまとめていくヒント、実例を紹介していければと思います。
第一のアプローチ
要素技術
まずは磁石ですが自動車用モータのニーズなどからアルニコとは比較にならないほどの高性能材料が入手できるようになりました。また、徐々に大型の磁石も製造できるようになってきました。特にネオジム磁石は希土類を使用するため高価ではありますが減磁による磁束低下も人間の寿命のレベルで考えるとほぼありません。しかしながらこのメリットが磁気回路製作には大きな足かせとなります。アルニコ、フェライト系の磁気回路では磁化していない状態で組み立ててから外部から強い磁界を与えて着磁させて完成させますが、ネオジム磁石では減磁しない分、着磁にも大きなエネルギーが必要で一般的には磁気回路に組んでしまうと着磁できません。従って磁石単体で磁化させたのち組み立てますが当然鉄の磁気回路を引き寄せますので非常に危険な組み立てとなります。弊社では各種ジグを使って安全に組み立てできる手順を作り製作しています。このことが大型のネオジム磁気回路が普及しない一要因です。
次に磁気回路材料です。こちらは定番の純鉄となります。当然ですが切削加工後に丁寧な磁気焼鈍を実施することで17000gauss程度まで透過できるように処理を実施しています。また、ギャップ部分はCo系材料のパーメンジュールを使っています。GOTOやエールでもリング状にして使っていますが一般的には熱処理まで行いません。当社では試行錯誤の中でパーメンジュールといえども加工後の焼鈍処理が効果があることを発見し還元雰囲気でのアニールを実施しています。また、特にセンターポール側ではツィータにおいて約Φ18mmの寸法的制約から磁気が通りきらず、パーメンジュールのリングまで十分に到達させる事が困難になります。エール音響では巨大な磁石をツィータに用いてもこの事が障害になることから磁気回路すべてをパーメンジュールで製作するという対策を取りました。しかし、ご存じのとおりその時代で1本200万円以上で現在同じようなものを作ると500万円?程になると思われます。このため磁気回路全体ではなく、最も透過磁束密度の高くなるセンターポールを全てパーメンジュール化し対策しています。
振動系についてはノウハウの塊になりますので詳しく説明できないのですが、ボイスコイルについては銅クラッドアルミ線を使用しています。GOTOの繊細さとエールのダイナミックスさの良い所どりを目指しバランスを模索しました。
振動板については金属系ではBeが決定版となりますが近年カーボン関連の開発が進みPAN系からピッチ系の高硬度系、さらにはグラフェン成分の多いグラファイト材料が入手可能となってきました。本製品ではこのカーボン系の材料にて振動板を構築しています。情報量の多さと嫌な響きのなさの両立に大きく貢献しています。この材料は比重が軽く硬度が高いのですが薄くすることが一般的には困難となります。一枚一枚手作業での成形と0.1mgスケールでの質量管理を実施しています。
このように振動系質量は全数検査管理を実施しホーンのコンプレッションによる機械インピーダンスマッチングをはかっています。この辺は古文書に書かれていた論理を紐解き、完全にマッチングできるように最善を尽くしています。
(予告なく変更の可能性があります)